輸入アパレル企業からの転職を経て、現在は都内の企業に務める石川ともえさん(50)は、30代中頃から月経痛緩和や避妊に効果のある低用量ピル「トリキュラー(28錠タイプ)」を服用し、50代に入ってからは血栓症のリスクが低いホルモン補充療法(HRT)に切り替え、月経困難症や更年期症状とは無縁の生活を送っています。
20代の時に子宮内膜症と診断され、卵巣嚢腫を手術した経験もある石川さんは、かかりつけのクリニックで身体やピルについて相談しながら、ご自身のヘルスリテラシーも高め続けてきました。
15年以上ピルを活用した体験談とともに、近年注目が高まっているHRTや、更年期の向き合い方についてもお話を伺いました。(取材:松原渓編集部員)
健康の秘訣は「我慢しないこと」。30代でピルを服用するように
日々の生活で心掛けていることは、「我慢をしない」ことです。仕事は基本的には週5日ですが、土日も働くことはありますし、仕事中心の生活と言ってもいいほどです。帰宅も遅い時間になりがちですが、仕事が好きだからストレスにはなりません。ただ、疲れとストレスが重なると一気に落ち込んでしまうと思うので、プライベートは一切ストレスをためないようにしています。
食事は、バランスを考えながら体にいいものを摂りたいという意識はあるのですが、実際には脂っこいものが食べたくなったら食べますし、朝食も、食べたくない時は無理して食べません。生活のリズムは不規則になりがちですが、疲れた時は休みの日にひたすら寝たり、ちょっといいホテルに行ってひたすらダラダラしたり。そんなふうに、自分の身体の声を大事にしながら生活をしていることが健康の秘訣だと思っています。
20代の頃に、お腹に激痛を感じたので検査したら、子宮内膜症と卵巣嚢腫が見つかりました。卵巣嚢腫は、片側の卵巣にできたチョコレート嚢胞が破裂寸前だったので、29歳の時に手術をしました。30代中頃からは、女性外来で有名な先生のクリニックに通うようになり、その頃から継続的にピルを服用しています。ピルを飲み始めたのは、望まない妊娠を避けて、自分のライフスタイルをコントロールしたいと考えたことと、生理痛を改善したかったことが理由です。
それ以前に、30歳になった時に低用量ピルを服用したことがあったのですが、その時は体に合わなくてやめたんです。海外から輸入されたピルで、治験も兼ねていたのですが、頭痛などの副作用が出てしまいました。
ただ、その後も生理痛は続いていたので、当時通っていたクリニックで相談したら、「トリキュラー」というピルを紹介されたんです。そちらは体に合っていたので、問題なく飲み続けられました。トリキュラーは1シート28日分(4週間分)で、1日1錠を3週間服用した後、女性ホルモンが配合されていないプラセボ(偽薬)を1週間服用します(休薬期間)。最初は飲み忘れる日もあったのですが、何年も飲んでいるうちに慣れて、飲み忘れがなくなりました。
ピルを飲み始めて、人生が大きく変わった!
クリニックには半年に1回通院して、半年分のシートを処方してもらっていました。必ず28日周期にしなくてもいいので、旅行や出張で生理が重なってほしくないときは、プラセボを少し早めに飲むか、ピルを他のシートからもらって、生理の日をずらしていました。予定に合わせて自分ですべて決められるのはすごく楽だし、ありがたいです。保険適用ではなかったので、費用は月3,000円ぐらいでしたが、大きな負担にはなりませんでした。ただ、ピルを飲む前の検査で、クリニックによっては3万円ぐらいかかるので、そこで躊躇する人はいるかもしれません。
継続的に飲み始めてからは生理痛に悩まされることがなくなり、PMS(月経前症候群)も一切なくなりました。一度だけ、子宮の検査をした時にピルを飲み続けるか悩んで、飲むことを中断した時期があったのですが、やめた途端に生理が大変なことになってしまって……。「このままでは生活に支障が出る」と感じるほどで、ピルで生理痛が抑えられていることのありがたさをあらためて感じました。PMSに何年も悩まされているという人もいますが、それがなくなれば人生は大きく変わると思いますし、今は私は思う存分人生を楽しんでいますよ。
ピルを飲み始めてからもうひとつの大きな変化は、更年期への不安がなくなったことです。10代、20代の頃に比べると疲れやすくなったので、40代中頃になった時に、今通っているクリニックの先生に「更年期ですか?」と聞いてみたら、「ピルはホルモンバランスを整えているから、基本的には更年期症状は出ないんですよ」と言われたんです。「気持ちの問題」とよく言いますが、「更年期にならないんだ」と思ったら精神的に楽になりましたし、不安になることもなくなりました。それも、ピルを続けてきた理由です。
更年期への有効な対策。女性たちが知識を共有できる場を
女性が多い職場だと、常にピリピリした空気を放っている40代の女性も中にはいますし、男性の中には、女性が怒ったり、ピリピリしたりしていると「あれは絶対に更年期だ」とイメージで話す人がいますよね。私は、そういうふうに思われるのは絶対に嫌でした。そして、そのためにはホルモンバランスを整えることが一番効果的だと思っています。
私は、親からは「ホルモンの薬なんて体にいいわけないじゃない」と言われ、反対されました。「ホルモンをコントロールなんてせずに、ありのままの流れに任せるべき」と考える人も、特に私の親の世代には多いと思います。もちろん、私自身はリスクも含めて納得した上で、それ以上のメリットを感じて続けてきました。
更年期については、女性同士でも話を避けてしまう部分があると思います。「ピルを服用していれば、更年期症状は出ない」と先生に言われたことについて、以前、周りの女性たちに話したら、「ピルを飲めば良かった」とか「これから飲もうかな」という人もいました。ただ、40歳を過ぎてから飲み始めると医学的にはリスクが上がるため、病院によっては推奨していなくて、ピルを飲みたくても飲めない人がいると聞きました。それを聞いて「30代から飲んでおいて良かった」と思いましたが、生理痛などで辛い思いをしている女性たちが選択肢を持てるように、ピルや更年期についての知識を共有できる場がもっと増えればいいと思います。
50歳からHRTに変更。3つのタイプから自分に合った薬を
私は薬を飲むことに抵抗感がないので、ピルのデメリットは特に感じていません。ただ、年齢が上がると血栓症のリスクが気になるので、先生と相談した上で、ピルは50歳まででやめて、その後はホルモン補充療法(HRT)に変えることにしました。
今年2月の誕生月に変えてから数カ月が経ちましたが、しばらくは生理痛がありました。ピルで卵巣を長く休めていた反動かもしれないと思い、それも先生に相談したら、HRTを通常の半分の量から始めて様子を見ることになりました。今は、ピルと同じように定期的に生理を起こさせる方法を続けています。
HRTには飲み薬と貼り薬と塗り薬の3つのタイプがあって、最初は貼るタイプを勧められたのですが、私は皮膚がかぶれやすいので、ジェルタイプの塗り薬を選びました。でも、疲れて帰ってきた日や、お酒を飲んで帰ってきた後に塗るのが面倒くさくて(苦笑)。飲むタイプの錠剤に変えてもらいました。今は20日間毎朝2種類の錠剤を飲んで、10日間は出血を起こすための薬を飲んでいます。やはり、錠剤は飲み慣れているので楽ですね。私の妹は今年49歳になるのですが、地元のレディースクリニックに更年期の症状について相談したら、同じHRTで貼るタイプの薬を処方されたそうです。
かかりつけのクリニックを持つことが大切
HRTは最初の2カ月分を出してもらって、慣れてきたから今は3カ月分をもらっています。3カ月後にまた行って、その時の私の体調によって半年分にするのか、先生と相談して決めるつもりです。状況によっては薬を半分の量ではなく、通常の量に増やすことも考えています。
今後について、先生には「これまでのように、更年期の症状が出ないようにしたい」という希望を伝えて、HRTを続けていきましょう、と言われています。HRTは何歳まででも続けられますが、私自身は、区切りとして60歳くらいまでにしようかな、と考えています。その時になったら、自分の体と相談しながら様子を見て決めたいですね。
「何歳になっても若くいたい」とは思いますが、美容整形などで作り込まれた若さではなく、「あんな50代、60代になれたらいいよね」と思われるぐらいにナチュラルで、健康な人生を送りたいです。今は定期的に美容のハイフをしたり、トランサミン(トラネキサム酸)錠を飲んだりしています。トランサミンには止血効果があるので、ピルを飲んでいる時は飲めなかったのですが、HRTに変えてからは先生が「飲んでもいい」と教えてくれたので、シミなどの対策として飲んでいます。クリニックではそういうことも相談できるので、まずは信頼できるかかりつけの病院やクリニックを見つけることがとても重要だと思います。
とはいえ、今の私と同じ年齢で「検査が怖い」という理由で一回も産婦人科の健診に行ったことがない人もいます。そういう場合は、オンライン診療などで相談してみることもひとつのきっかけにはなるのではないでしょうか。
ピルを使うことは、女性のライフスタイルにも関わってくるので、健康に問題なく、薬に抵抗がない人なら、活用することをお勧めします。ただ、避妊のみを目的としてピルを飲む場合は、性病のリスクが消えるわけではないので、そういう正しい知識を持つことも必要だと思います。お母さんたちは、子どもたちにそういう知識と一緒に「女性が自分で選択できる」ということを教えてあげてほしいですし、若い世代だけでなく、親世代の意識も少しずつ変わっていけばいいなと思っています。
【Profile】石川ともえ
転職を経て、現在は都内の企業に勤務。週5日以上のペースで多忙な毎日を送っている。20代で子宮内膜症と卵巣嚢腫を併発し、手術後、30代から低用量ピル「トリキュラー」を服用。50代に入り、今年からはホルモン補充療法(HRT)に変更し、錠剤タイプを毎日服用している。
取材後記(松原 渓)
上品で凛とした佇まいながら、とても明るく、周りを巻き込むポジティブなオーラを放つ石川さん。月経痛や、更年期障害への対策など、ご自身の体験から知識を深めてこられた中で、ピルを最大限に活用して日々の生活を楽しんでいます。そうした高いヘルスリテラシーだけでなく、健康や美容への関心の高さも窺え、「思う存分人生を楽しんでいます!」と、屈託のない笑顔が印象的でした。つい、身を乗り出して質問を重ねてしまいました(笑)。
更年期症状が現れやすい40代、50代の女性にとって、ピルやHRTは、QOLを高めてくれる力強い味方。更年期への不安を解消する意味では、「心のお守り」にもなりますね。HRTは「飲む」「貼る」「塗る」タイプがあり、目的や症状、体質によって選べる選択肢があるのも魅力だと思います。備えあれば憂いなし。信頼できるクリニックやコミュニティを見つけて、来たるべき時に備えたいですね。
更年期の症状が出始めて、不安で対策を考えていたらこちらのサイトに辿り着きました。
HRTは知らなかったのですが、検討してみたいと思います。副作用が気になるところですが、不安が解消されるだけでも大きいと思います。
ピルも含めて、選択肢が増えて良かったです。
ありがとうございます。