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【対談】上地結衣選手×松田先生~①アスリートと黄体ホルモン単剤~

編集部

 2024年パリパラリンピック・車いすテニス女子シングルス、ダブルスで2冠を獲得した、上地結衣選手(30)。実は2年ほど前から、フェムライフ監修医の松田貴雄先生指導のもと、低用量ピル「ジェミーナ」を服用しています。車いすユーザーは障がいの種類や部位がさまざまで、多くの場合下半身がまったく使えない/または動きや感覚に制限のあることが多いため、血栓症リスクを鑑みてピルの服用を敬遠する方も少なくありません。上地選手も当初は血栓症リスクのない「黄体ホルモン単剤」を服用していましたが、カラダに合わなかったようで…?当時を振り返った、松田先生との対談をお届けします!(第1回/全3回)




◆PMSで黄体ホルモン単剤を服用も…集中力の低下に悩む日々


上地選手

2017年~2018年あたりから、自分では不調とは思わない程度のところから不調(PMS、月経前症候群)が始まりました。「今日ちょっと疲れてるからかな?」とか、「遠征が続いてるからかな?」とか、そういったところから、気づかないうちに始まっていきました。今までそんなことはなかったのに、月経前になると、急に親知らずが痛くなったり、頭痛がしたりするんです

その症状がすごく不確定で、どこにいつ来るのか、全然予測ができなかったんですね。それで「うわ、今回歯に来た」「今日は起き上がれないぐらい頭が痛い」と思って、数日すると月経が来る、という状態で。なにかしら対処できることはあるかなと思って、当時お世話になっていた先生に相談して、黄体ホルモン単剤(※)を飲み始めました。


(※)黄体ホルモン単剤…ジエノゲスト/ディナゲスト、ノアルテン、デュファストンなど。低用量ピル同様、月経困難症を緩和する薬。ピルと違いエストロゲンを含まないので、血栓症のリスクを避けられるが、自らのエストロゲン分泌を抑える場合もあるため、人によっては気分の低下や更年期症状が起こることもある


松田先生

たしかに、PMSで歯が痛むこともありますね。月経前は神経の感じが変わってくるので、むくみが出たり、いろんなこと(不調)が起こるんです。むくみが出ることで神経を圧迫して、それで痛む箇所が出ることもあります。最終的にメンタルに来たりとか、自律神経がかなり関係しますね。


上地選手

車いすテニスは競技特性上、3時間とか、長いときは4時間の試合になるんですね。長丁場になるとずっと気を張っているのではなく、「一旦ここで抜いて、もう1回入れて」と、気持ちを切り替えたりもします。長く集中力が続くというのが、自分のプレーの中でも重要な要素だったんです。

でも、黄体ホルモン単剤を飲み始めた頃から、集中力が続かないとか、やる気が起きないとか…精神的なものかと思いがちなんですけど、「ここ1本取りたい!」と思ったときにも、なんだか気分が乗っていかないというか。そういった症状が、お薬を飲み始めてからちょっと気になるな、と思っていました。


松田先生

お薬の特性上、黄体ホルモン単剤は少し気分が落ちてしまうところがあります。特にアスリートの場合、少しモチベーションが下がることを(これまで診てきたアスリートたちは)かなり経験していたので、「恐らくそうじゃない?」とお話ししましたね。


上地選手

はい。ただ、悪いことばかりではなかったんです。私はどうしても熱が内側にこもりやすくて、あまり普段から汗をかかない体質だったんですね。ただ、黄体ホルモン単剤を処方していただくようになってから、代謝が良くなり、汗をかくようになったため、熱がこもることによる頭痛がなくなりました。月経調整もすごく楽になったり、お薬を飲み始めてからいい意味で変わった部分もあったのですが、それ以上に、やっぱり気持ちの部分でのマイナス面が気になったところではありましたね。


松田先生

黄体ホルモン単剤には少し体温上げる効果があって、頭の中枢にも働いてくれるんです。もともと黄体ホルモンというのは、黄体期(排卵後~月経前の期間)に分泌されるものなので、カラダが妊娠に向けて0.6度ぐらい体温を上げるんですね。それで代謝が良くなったものと思います。



◆薬の量を減らすという自己判断が大正解!


上地選手

私は正直、不調の原因がお薬だとは全く考えていなかったです。スランプじゃないですけど、そういう時期なのかな、とか。悩むというより「どう対処したらいいのかな?」と思って、いろんな方にお話を聞いたりしました。

ちょうど黄体ホルモン単剤を服用している知人がいたので、「ちょっと自分には合わないかもしれないんです」とお話をしたら、「私も飲む前の自分の状態と違うな、って感じることがあるのよ~」と言っていただいて。お薬は口に入れるものなので、栄養士の先生にも相談したところ、松田先生につながる方をご紹介いただいて、お世話になるようになりました。


松田先生と知り合う前は、薬の量を減らすことで対処していました。月経を止めるために処方されていた量では、どうにもこうにもうまくいかないな…と思って。本当は良くないのかもしれないですけど、私は一般の女性の方よりも背が小さいですし(143㎝)、 もともとの障害以外で病気をすることもなかったので、薬を飲む機会が本当に少ないんですね。なので「もしかしたら人よりも薬がよく効くのかな?」と思って、薬の量を減らしていました。


松田先生

カラダが小さいから、朝晩飲むところを朝だけにしました」と言っていましたね。ご自身で考えてやられたことですが、それがけっこう当たっていたんですよ。当時はまだ、黄体ホルモンが多すぎると少し体調が悪くなるとか、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が下がることが、あまり知られていなかったんですよね。上地選手の感覚は、めちゃくちゃ当たっていたんです!


上地選手

先生に初めてお会いしたときは、もう自分なりにいろいろとやっていた時期だったので、「勝手にやっていることを言ってもいいのかな?」って、ちょっとビクビクしながらご相談させていただきましたね(笑)


松田先生

もともとエストロゲンの数値が高い方だったら、黄体ホルモンの量が増えてもあまり問題はありません。上地選手の場合は、黄体ホルモンを増やしたことでエストロゲンの分泌を抑えてしまっていたので、その場合、黄体ホルモンの量を減らすか、エストロゲンそのものを入れるか、どちらかなんです。それならば、エストロゲン配合の低用量ピルを内服するほうがいいのかな、と考えました。(続く)

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