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【対談】上地結衣選手×松田先生~②アスリートと低用量ピル~

編集部

更新日:3 時間前

 2024年パリパラリンピック・車いすテニス女子シングルス、ダブルスで2冠を獲得した、上地結衣選手(30)。実は2年ほど前から、フェムライフ監修医の松田貴雄先生指導のもと、低用量ピル「ジェミーナ」を服用しています。車いすユーザーは障がいの種類や部位がさまざまで、多くの場合下半身がまったく使えない/または動きや感覚に制限のあることが多いため、血栓症リスクを鑑みてピルの服用を敬遠する方も少なくありません。その中で、上地選手が「ピル」を選んだ理由と、処方を決めた松田先生の思いに迫りました。(第2回/全3回)


★対談①「アスリートと黄体ホルモン単剤」はこちら



◆ピルの服用に「不安がなかったわけではない」


上地選手

テニスという競技は、1年間に出場した大会の成績を上から順に数えてランキングが構成されます。まだまだヨーロッパ主流のスポーツでもあるので、必然的に海外へ行くことも多く、移動は長距離のフライトがほとんどです。さらに私たちのような車いすユーザーは、機内での簡単な運動やストレッチなどもなかなか不十分になりがちです。

正直(ピルを飲むことに)不安でないことはなかったのですが、自分が気になる症状(詳しくはこちら)のほうがやっぱり…。試合や選手活動をしていても、「こんな性格、こんなはずじゃないのに」「弱くなってしまったのかな?」と、自分自身を疑うというか。ちょうどその頃は試合でなかなか成績が出ないこともあったので、それが自分の技術面なのか、精神面なのか、迷いがあったんです

それでも松田先生は、「何かあったらそのときそのときで対応して、自分のカラダに合った形で進めていきましょう」というお話をすごく丁寧にしてくださったので、安心して始められましたね。


松田先生

(ピルの服用開始後)最初にフライトした後に、足の指が痛くなったんですよね。


上地選手

そうでしたね!先生はこれまでにもスポーツ選手をたくさん診ていらっしゃったご経験から、「時差があって日本が真夜中でも、電話がかかってきた経験もある。24時間対応するつもりでいるから、 気になることがあったら電話でもメールでも、いつでも連絡してきたらいいよ」と言ってくださっていたので、もう早速…(笑)


松田先生

見事に腫れた写真がね(笑)。幸い血栓ではなく、偽痛風というものだったんですけれど。


上地選手

そのときも、事前に「こういう症状が出るかもしれないからね」とお聞きしていたので、遠征先で1人でしたけど、連絡しようと思うことができましたね。



◆ピルに切り替えて感じた変化


上地選手

ピルを飲み始めて、例えば「やる気マンマンで全然違った!」というわけではなかったんですけど、お薬の転換期で少しずつに変わっていって…「(集中力の低下が)気にならなくなった」というのが一番ですね。1試合を通して、負けたとしても勝ったとしても、「なんか今日の試合、全然そんなこと考えずにプレーできたな」ということが、徐々に多くなっていったと思います。

 あえて、自分でもあまり気にしすぎないように。せっかくお薬を飲んで状況が改善しているのであれば、反対に気にしすぎると、せっかくの効果がきちんと測れないと思ったので。流れに身を任せていると、いつの間にか長い試合でも連戦でも、戦えるようになっていたと思いますね。


松田先生

急激に「はい、飲んだら変わりました!」みたいなことじゃないんですよね。微妙にベースが悪かったところが徐々に上がってくるから、「気にならなくなった」というところが一番大きいんです。3倍ぐらい能力が上がれば、はっきり分かるんですけどね(笑)


上地選手

そうですね。本当に、一番は「気にならなくなった」「そのことを考えなくてよくなった」。やっぱり試合の中でも、相手との状況だったり、自分の戦術だったり、スポーツ選手は考えることが多いと思うんです。(集中力の低下が気になると)そのひとつの要素を取られてしまうので、なかなか、試合に集中するのが難しかったと思うんです。


松田先生

そういう形で言ってくれるのが、一番いいですね。だから、特に感謝されるわけじゃない状況になるのが、僕らとしてはいいわけですね。「先生、すごく変わりました!」と言われることって、あまりないんです。



◆車いすのアスリートにピルを処方する


松田先生

医者をやっていると一番(状態の)悪い人を知っているので、「そう(血栓症に)なっちゃったらどうしよう」という思いはあります。特に、スポーツやっている有名な選手がそんなことになったら、マスコミにも取り上げられて「誰がそんなの飲ませたの?」と言われるので、やっぱり(処方は)慎重にはなりますね。

ただ、血栓症は予測することができないんですよね。ですから、「症状はどうですか?」と密に報告をもらう形で対処することになります。そのコミュニケーションができないと、ピルは処方しづらいです。

「いつでも連絡していいよ」という形をとるのは他のアスリートも同じで、最初の1~2ヶ月ぐらいまでをきちんとケアしてあげることが重要なんです。血栓症は飲み始めの1ヶ月ぐらいで起こることが多いので、その時期の症状を聞かないといけません。だから、足が腫れたと聞いたときには一瞬ドキッとはしましたね。


スポーツ選手の中でもズボラな選手、例えば「もう疲れちゃった~」とケアもせずそのまま寝ちゃうような選手だったら、あまりピルは飲んでほしくないです。それから、コンタクトスポーツの選手だと、内出血を起こしたり、ぶつかって出血した場合に困ります。出血が多いとき=血小板が増えたときに、トラブルが起こりやすいんです。だから、出産後は血栓ができる確率が高いんですよ。①たぶんズボラな選手じゃない②テニスはコンタクトスポーツじゃない、ということを前提に、ピルの処方を決めました。


上地選手

ありがとうございます。なるほど!


松田先生

それから、脊髄損傷などの状況次第では、そこから下の神経があまり働いてないので、痛みに気付きづらいことがあるんです。上地選手は比較的そういうところ(下半身の感覚)が分かる方だと聞いていたので、障がいの程度も加味した上で、僕はピルでもいけると考えました


上地選手

先生がおっしゃったように、その最初の1~2ヶ月はすごく密に連絡を取ってくださって、週1くらいのペースで「どうですか、こういうことがあるかもしれないですけど出てないですか」とご連絡をいただいていました。私も「どうかな?」と自分で顧みることもできましたし、「次何かあったとき、こういうところを見ればいいんだな」と勉強させていただきました。それで血栓の症状もなく順調に進んでいっていたので、今はご連絡をする間隔がすごく長くなりましたよね。


松田先生

「頼りがないのは元気な証拠」ですね!(続く)

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