今年10月からイギリス・ロンドンに駐在中の会社員、三田咲月さん(29=仮名)は、6年前から超低用量ピルを服用しています。イギリスでは国民保険サービス「NHS」に加入すると自己負担なく病院を受診でき、無料で低用量ピルの処方を受けることも可能です。現地でピルを入手した三田さんに、1ヶ月半ほどかかったという手続きの流れや、イギリスのピルを服用した感想を伺いました。(取材:みらい編集長)
(※)NHSはイギリスの4つの地域(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)ごとに分かれていますが、三田さんが加入しているのはイングランドのNHSです。この記事の内容は、他地域のNHSに必ずしも当てはまるものとは限りません。
三田さんが服用中のピル
◆「なんとかなりそう!」2ヶ月分のピルを持ちロンドンへ
収入が安定してきた社会人1年目の秋にピルを飲み始めて、丸6年になりました。服用のきっかけは、海外旅行に生理が重なるのを避けたかったことや、生理痛の軽減が期待できそうだったことです。最初に処方していただいたのは超低用量ピル「ヤーズ」で、その後はヤーズのジェネリック医薬品(後発品)である「ドロエチ」に切り替えました。飲み始めてからは経血量が減り、生理痛もかなり軽減されて感動しました!私は特に副作用も感じませんでしたし、ピルにトライしてみてよかったと思っています。
そんな中、数ヶ月前にロンドン駐在が決まりました。海外でもピルの服用を続けたいと思い、現地のピル情報について調べたところ、イギリスでピルを処方してもらったという日本人の情報がたくさん出てきました。「なんとかなりそう!」と判断して、現地でピルを処方してもらう方向に決めました。
一般的に、外国に入国する際に持ち込みが認められる処方薬は上限3ヶ月分だそうです。日本で最後に処方を受けたのは渡航の約1ヶ月前だったので、出国時点で2シート弱ほどピルが残っていました。それを手荷物として機内に持ち込み、飲み切る前に現地で処方を受けようという算段でした。
◆無事に現地到着も、立ちはだかった言語の壁
イギリスには、NHSという国民保険サービスがあります。私のように仕事でイギリスに駐在している外国人も加入でき、加入者は自己負担ゼロで医師の診察を受けることができます。処方箋薬は通常有料ですが、なんと低用量ピルは無料です!
日本の医療制度との違いとして、NHSでは「GP」というかかりつけ医の登録が義務づけられています。NHSを利用して病院にかかる場合、どんな症状でもまずはGPの診察を受けて、その後必要に応じて専門の病院を紹介していただく流れになっています。
ドロエチ同様プラセボは4錠
NHSへの加入申請は、就労ビザ取得時に行ったようです(会社が手続きと支払いをしてくれたので、詳しいことは分かりません)。現地に到着後、まずはGPの登録…といきたいところでしたが、GPの登録には住所が必要でした。ロンドンに着いてからアパートの契約を結ぶまでに3~4週間ほどかかったため、到着25日目くらいでようやくGPの登録ができるようになりました。
登録作業は、NHSの公式サイトで行います。自宅付近の病院を探したところ、オンラインでGP登録ができる病院があったので、そちらを登録しました。いろいろと探しましたが、新規の登録を受け付けていない病院や、窓口でしか登録ができない病院もありました。
3日後、GP登録完了通知が届きました。同時に患者専用サイトを案内いただけたので、そこから「月経困難症対策の低用量ピルが欲しい」というチャット相談を送り、約2週間後に来院の予約を取りました。しばらくすると病院から着信があり、服用中の薬やアレルギーの有無を尋ねられました。
また、病院からのSMS(ショートメッセージ)で「子宮頸がん検診の予約を取ってください」との指示がありました。サイトで予約状況を確認したところ、来院予定日までに空きがなかったため、予定日の1週間後に予約を入れました。
予約日になり、病院に行きました。ピルを処方していただく予定でしたが、「子宮頸がん検診を受けてからでないと処方できません」と言われ、その場で検診を受けることになりました。いきなり器具を入れられて、かなり痛かったです。日本のクリニックでは患者の顔を隠すカーテンがあるなど、羞恥心を和らげるための配慮がなされていますが、そういったものは一切感じませんでした。
検診後、受付でピルを処方していただきたい旨をあらためて伝えたところ、「薬局に行く方が早いですよ」と言われてしまいました。処方箋がなくても薬局でピルの購入は可能ですが、私はNHSに加入しているので、処方箋があれば無料で入手することができます。自分の状況を英語で説明したかったのですが、うまく伝えられず苦戦していたところ、受付の方から「日本語通訳を入れた電話診療を手配するから、明後日電話に出てください」と言われて、その日は帰宅することになりました。
2日後、病院から着信がありました。病院のスタッフ、通訳、私の3人で会話をする形での診察でした。日本で服用していた薬の名前と有効成分量を伝えると、「同じ成分のものを処方しますね」と言われました。最後に受け取り希望薬局を伝えて、電話は終了しました。
その後、病院から処方箋送信完了のSMSが届きました。ただ同時に、「血圧と身長・体重のデータを送るか、来院して測定してほしい」というSMSも届きました。自宅で血圧は測れないので、翌日また病院に行くことになりました。
2度目の通院をした翌日、ようやく薬局でピルを受け取ることができました。ロンドン到着からピルの受け取りまでおおよそ1ヶ月半かかりましたが、なんとか手に入れられて本当によかったです。
◆感想は「日本のピルと同じ」。違いは“無料”か否か
服用を始めてしばらく経ちますが、今のところ日本で飲んでいたピル(ヤーズ、ドロエチ)と特に変わりはありません。パッケージが違うだけで、同じ薬だと感じます。
日本との違いを感じたのは、箱に入っていた説明書が冊子型になっており、ピルの効果や副作用についてかなり詳しく記載されていたことです。日本では処方箋なしでピルを購入することはできませんが、イギリスでは処方箋なしでの購入が可能です(ただし自費になります)。市販薬でもあるため、説明書が充実しているのだと感じました。
イギリスでピルを入手するのは、本来それほど難しいことではないと思います。私はGPの登録からピルの受け取りまで20日ほどかかってしまいましたが、英会話を敬遠してオンラインでの手続きで済ませようとしたことが、かえって良くなかったと感じています。最初から直接病院へ行って相談すれば、すぐに通訳を手配していただけたはずです。一方で、NHSを利用した診察に通訳を入れられることはあまり知られていないようにも思うので、ぜひたくさんの方に知っていただきたいと感じました。
ピルを無料で入手できることは、素晴らしいと感じます。生理は病気ではありませんし、本来こうあるべきだとも思いました。日本にもいつかこんな日が来るよう願いながら、ロンドンでの生活を楽しみたいと思います!
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