女性活躍推進に優れた企業=「なでしこ銘柄企業」で働く山本京香さん(31=仮名)は、会社の福利厚生で約1年間低用量ピルを服用しました。ピルの良さは実感したものの、会社からの補助が切れた現在は服用を中断しているといいます。女性社員や社員の女性家族にピル代の補助を行う企業は増えていますが、実際には課題もあるようです。当事者である山本さんが、今の思いを赤裸々に明かしてくれました。(取材:みらい編集長)
会社の福利厚生で1年間ピルを服用した山本さん(画像はイメージです)
過去のピル服用経験で、良さを実感していた
私の勤務先は「なでしこ銘柄企業」に選定されており、女性社員の働きやすさを重視しています。その一環として、昨年3月から今年2月までの1年間、低用量ピルの薬代とクリニックの受診料を会社が全額負担してくれることになりました。過去にピルを服用して良さを感じていたこともあり、私は迷わず飛びつきました。
以前服用していたのは5年ほど前です。当時は生理痛が重く、仕事や生活にかなり影響が出ていました。酷いときは痛み止めを飲んでも数時間効かず、寝ているのか失神して意識を失っているのか、自分でも分からないことがありました。
これはもう、ピルを飲むしかない・・・!と思い、インターネットで調べて「ピル処方率100%」と謳っているクリニックに行きました(今思えば、そんな宣伝文句につられて良かったのでしょうか)。そちらでは「トリキュラー」を処方してもらいました。お医者さんから「じゃあ、これを」と渡されたので、薬の種類を選んだ記憶はありません。
実際に飲み始めてみると、あんなに重かった生理痛がほとんどなくなりました!PMSもかなり楽になっていたと思います。トリキュラーでは、副作用も感じませんでした。
ピルの良さは感じていたのですが、価格がネックになってやめてしまいました。保険適用で3割負担だったら、続けていたと思います。もともと病院が苦手なので、クリニックに通うのが億劫だったこともありますね。
全額補助でピル再開!知らなかった一相性と三相性の違い
そんな私にとって、会社がピル処方にかかる代金を全額負担してくれるというのは、願ってもない話でした。最初に説明会がありましたが、かなり多くの女性社員が参加していた記憶があります。ピルに興味のある女性は多いんでしょうね。
会社は大手のオンラインピル処方サービスと契約しており、専用のアプリを通じて診察と処方を受けました。ピルは2~3日でポストに投函されるので、忙しいときはありがたかったです。初回は1シートのみでしたが、2回目以降は3シート処方していただけました。オンライン診療なので当然ネット予約ができるし、予約自体も取りやすかったです。短時間なのでこっそり仕事を抜けて診察を受けることもでき、クリニックに通っていたときよりも手軽さを感じました。
今回は「ファボワール」を処方していただきました。ただ、飲み始めてからしばらく下腹部の痛みが続きました。お医者さんからは「飲んでいくうちに慣れていくからね」と言われましたが、半年ほど飲み続けても完全には慣れなかったんです。そのため「前回飲んでいたのはトリキュラーでした」と先生に伝えたところ、トリキュラーの後発品(ジェネリック医薬品)である「ラベルフィーユ」に切り替えることになりました。
私はこの流れの中で、ピルに「一相性」と「三相性」があることを初めて知りました。以前通っていたクリニックではそのあたりの説明はなく、選択肢も与えられませんでしたから。過去に飲んでいた「トリキュラー」は三相性です。今回飲んだ「ファボワール」は一相性なので、その違いが身体に合わなかったようです。三相性の「ラベルフィーユ」に切り替えてからは下腹部痛もなくなり、生理痛、PMSともに改善されました!
一相性と三相性どちらにも共通して良かった点は、肌荒れしにくくなったことです。ニキビができにくくなって、嬉しかったですね。
(※)一相性と三相性の違い:実薬(プラセボでないもの)の女性ホルモン含有量が全て同じものを「一相性」、3段階に分かれているものを「三相性」という。一相性は常にホルモンバランスが一定に保たれるため、肌荒れやPMSに効果があるとされる。三相性は実際のホルモン分泌量の変化に近づけることができるため、不正出血が起きにくいとされる。それぞれ身体に合うかどうかには個人差があり、一相性と三相性どちらも問題なく服用できるケースもある。
補助制度の終了・・・身体的負担か、経済的負担か
最初(約5年前)にピルを飲んでいたときは、「もしやめても、生理痛は軽いままだったりしないかな」と少し期待していたんです。でも実際にやめるとそんなわけもなく、つらい生理痛が戻ってしまいました。あまりにも痛いときは、仕事中に1~2時間ほど休憩をいただくこともありました。
会社の福利厚生でピルを再開してからは生理痛がおさまったし、経血の量も減ったことでお手洗いに行く頻度が下がりました。お仕事の効率面ではいい影響ですよね。生理周期も整ったので、旅行などの予定も立てやすくなりました。ピルの服用を迷っている同期には、迷わずお勧めしました。
ただ、会社の福利厚生期間は今年2月で終わってしまいました。最後に受診したのは2月ですが、3ヶ月分のピルを処方していただいたので、5月までは服用を続けることができました。
そこから先は、続けるとしたら全額自費になります。迷いましたが・・・私はピルを中断することに決めました。理由は前回と同じ、価格が高すぎることです。
会社は「セルフケアの推奨」という理由で、ピル処方にかかる費用の全額補助をしてくれていました。ただ、私は「生理は1年じゃ終わらないよ?」と言いたいです。中途半端に1年間だけ全額補助するよりは、恒常的に何割か負担してもらえるほうがありがたいです。「結局、女性が自分自身で身体的負担か経済的負担を選ばなきゃいけないんだ」と、少し失望しました。5月にピルをやめたあとの生理は、ものすごくつらいです。やはり私にはピルが必要だと感じました。
ピルの補助制度は終わりましたが、会社では生理休暇を取りやすくする動きがあるなど、引き続き女性の健康問題に取り組んでくれています。実際に制度を利用した私たちの声にも耳を傾けて、より良い労働環境の構築に向かってくれたらいいなと思っています。
ドクターコメント
山本さんは保険適用ではないピルを内服されていたようですが、月経痛緩和目的であれば保険適用でピルを処方することが可能です。ピルケアを再開される際は、医師に相談されてみてください。
【Profile】山本京香(仮名)
都内在住の会社員。生理痛緩和のため過去にピルを服用していたが、金銭的な理由で中断。会社の福利厚生で1年間ピル処方にかかる費用の全額補助があり、服用を再開したものの、制度の終了を受けて現在は再び中断している。金銭面の不安がなければ、ピルケアを続けたいと思っている。
取材後記(みらい編集長)
低用量ピルの普及に伴い、女性社員や社員の女性家族にピル代の補助を行う会社が増えています。とてもいい流れだと思う一方で、その実態はどうなのだろうと気になっていました。
山本さんは、とても正直に心の内をお話してくれました。会社への感謝もあるけれど、たった1年じゃ意味がない・・・お話を伺いながら、その通りだと感じました。これではピルを販売する会社の宣伝に使われているだけじゃないか、と。
なでしこ銘柄企業のこうした取り組み自体は、素晴らしいことだと思います。ただ、せっかくなら「やるだけ」ではなく、制度を利用した山本さんたちのフィードバックを受けて課題を洗い出し、今後の取り組みに生かしていただきたいと思いました。
山本さんが勤務されている会社が、福利厚生での補助を1年で終えた理由が気になります。
生理による女性の身体的、経済的負担が減る社会になって欲しいです。